インボイス制度で「期中現金主義、期末発生主義」がなくなる⁉

インボイス制度

「期中現金主義、期末発生主義」という簡易的な経理処理を行ってきた事業者は、インボイス制度の開始にあたって、今までと同じような会計処理ができなくなってしまう場合があります。

まず、「期中現金主義、期末発生主義」を自社が行っているかどうか確認しましょう。

「期中現金主義、期末発生主義」とは?

会計や税金では、経費や売上を発生主義で計算することとなっています。「発生主義」とは、経費や売上などの取引が発生した時点で、計算する方法です。売上については、取引が発生し、かつ、売上金などをもらう権利が確定したときに、計算します。これを「実現主義」と言い、広い意味では発生主義に分類されます。そのため、ここでは、「発生主義」と呼びます。

一方、現金主義は経費や売上などを現金で支払ったり、入金されたりしたときに、計算します。

本来であれば、会計や税金の計算は、経費や売上などの取引が発生したときに記帳し、現金が入出金されたときに記帳する必要があります。

そうすることによって、常に買掛金や売掛金などの債権債務を把握でき、資金繰りを決算のときだけでなく、定期的に確認ができます。(通常、請求書発行や請求書の受領等は1か月単位ので締めが多いので、その会計処理後に確認ができます。)

しかしながら、この方法だと1つの取引に対して、取引発生時と決済時に2回記帳しなければならないため、手間が増えます。

さらにそれぞれの資料を基に記帳をすると銀行間などの資金移動やカード払いなどでの重複する記帳も発生します。

その手間を減らすため、通常は現金主義で記帳し、税務申告をする期末には発生主義に補正をする方法、すなわち「期中現金主義、期末発生主義」を採用する場合があります。

この方法を採用している場合には、インボイス制度での影響を考えてみましょう。

インボイス制度での「期中現金主義、期末発生主義」の影響

では、この「期中現金主義、期末発生主義」は、消費税のインボイス制度によって、どのような影響が出るのでしょうか?

まず、免税事業者は消費税の課税事業者でないため、影響がなく、そのまま継続できます。

また、課税事業者でも、簡易課税制度適用事業者及び2割特例を受けることが確定している事業者も、影響がなく、そのまま継続できます。ただし、2割特例は期間限定ですので注意してください。

問題は、課税事業者で、原則課税適用事業者及び2割特例を受けることが確定していない事業者は、インボイスを取引時点で確認する必要があるため、事実上、期中も発生主義に移行せざるを得ない可能性が高くなります。

「期中現金主義、期末発生主義」から「発生主義」への移行の影響

「期中現金主義、期末発生主義」は手間を減らすためでした。したがって、「発生主義」への移行することによる影響は手間が増えるということが、まず第一に上げられます。

具体的には、今まで手間を減らしていた「取引」時点での記帳が増えることになります。

その結果、自社で経理をしている場合には、取引時点の記帳分手間が増えることになります。

また、税理士事務所に経理をお願いしている場合には、記帳の手間が増える分、記帳代行料の値上げが予想されます。

インボイス制度下でのさらなる影響

売上について

インボイス制度では、適格請求書には以下の事項を記載する必要があります。

  • 取引年月日
  • 取引内容
  • 取引金額
  • 消費税額
  • 適用税率
  • 軽減税率の適用を受ける場合の適用税率
  • 適格請求書発行事業者の登録番号

したがって、適格請求書発行事業者は経理業務の見直しやシステムの導入が必要となる事業者も少なくありません。

経費について

  • 取引先の登録番号の確認が必要になる

インボイス制度では、取引先が課税事業者の場合、適格請求書を発行した事業者からのみ仕入税額控除が認められます。そのため、取引先の登録番号を都度確認する作業が必要になります。

  • 仕入先の登録事業者とそうでない事業者で税額計算や記帳方法を分ける必要が出てくる

インボイス制度では、取引先が免税事業者の場合、仕入税額控除が認められません。そのため、仕入先の登録事業者とそうでない事業者で税額計算や記帳方法を分ける必要が出てくるでしょう。

これらの煩雑化に対応するためには、経理業務の見直しやシステムの導入が必要となる事業者も少なくありません。また、従業員への教育や周知も重要です。

「期中現金主義、期末発生主義」のやめることのメリット

「期中現金主義、期末発生主義」は手間を省く簡易的な方法として、採用されていた事業者や税理士事務所は少なくありませんでした。

これはこれでメリットがある反面、デメリットもありました。例えば、

  • 単式簿記を複式簿記に補正したようなものであるため、複式簿記上のメリットである記帳誤り等のチェック機能が充分に働かない
  • 期末の売掛金などの債権や買掛金などの債務を決算時点で確認するため、確認モレが発生しやすい
  • 債権債務を別途管理していない場合には、債権債務の貸倒れや支払いモレなどの管理ができないため、経営不振の原因になっていても気付くのが遅れる可能性がある
  • 複式簿記のチェック機能がないため、内部のけん制効果が働かず、不正をしにくい環境ができにくい

などが挙げられます。「期中現金主義、期末発生主義」のやめることでそのデメリットが解消されることに繋がります。

手間は増えますが、「期中現金主義、期末発生主義」をやめることのメリットも考えてみてはいかがでしょうか?

これからの対策案

問題は、インボイス制度で、手間が増え、税理士報酬の値上げが想定されます。

では、どうすれば、手間をあまりかけず、税理士報酬の値上げを抑制する方法はあるのでしょうか?

その対策案の一つとして、挙げられるのが、「クラウド会計」です。「クラウド会計」では、金融機関などとのデータ連携、自動仕訳機能などの機能により、ある程度自社で経理ができるようなシステムです。

金融機関などとのデータ連携により、「決済」時の記帳を省略することが可能となります。

また、登録番号の確認を自動検索できる機能があり、手間をあまり増やさずできます。データ保存から自動仕訳等までやってくれるサービスもあります。

さらに、請求書発行や経費精算、給与計算などのシステムと連携し、入力の手間を省くことも可能なものもあります。

従来のインストール型の会計ソフト会社もクラウド会計への移行を検討している傾向にあり、海外では日本以上に普及しています。

クラウド会計は、会社によって対応が統一されているわけではありません。また、レベル的にも改善の余地のある部分もあります。

また、自動仕訳機能も会社の状況によって処理が異なる場合もあります。そういった場合のため、税理士にチェックをしてもらうことをお勧めします。

クラウド会計を採用している税理士事務所では、弊所を含め金融機関などのデータ連携を行うことにより記帳代行料を割引しているところもあります。

さらに、来年1月からの電子帳簿保存法の対応も必要です。「クラウド会計」では「クラウドサーバー」に保存でき、電子帳簿保存法に対応もなされているものもあります。

以上のように、「クラウド会計」は「インボイス制度」の対応としては有効な方法の一つです。検討してみてはいかがでしょうか?

なお、この投稿は、投稿日現在の情報です。投稿者の私見が含まれており、情報の誤りがある可能性もあります。また、個々の状況により、適切妥当な判断が異なる場合もあります。したがって、本投稿に基づき、発生した損害等は一切応じられません。顧問税理士がおられる場合には、相談していただくことをお勧めいたします。

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