個人で事業を開始しようとしたけど、税務署とかでどんな手続をすればよいのかわからない方に具体的な手続き方法を解説します。
個人営業の開業手続きの流れ
個人事業の開業手続きは、通常次の流れで行います。
- 事業内容や事業計画を考える
- 屋号や商号を決める
- 業種に応じた許認可
- 税務署への各種届出書を提出
- 都道府県税事務所と市町村への事業開始等申告書を提出
- 必要に応じて、社会保険の加入手続きを行う
事業内容や事業計画をしっかり考えると、開業後の経営がスムーズになります。また、屋号や商号は、事業の顔となるので、慎重に決めるようにしましょう。
今回は、役所関係に提出すべき3~6の手続について、説明します。
業種に応じた許認可
営業する業種によっては、許認可が必要な場合があります。許認可を取得していないと、営業を開始することができない場合もあります。
許認可を行っている役所などや手続方法はそれぞれ違いますので、開業する業種が許認可が必要かどうか予め確認することをお勧めします。
例えば、税理士業を行う場合、税理士資格を持っていても、税理士会に登録されるまで、名刺の作成や営業活動も制限されていました。業種の許認可によっては制限の程度もあると思いますが、営業活動の事前準備が許認可に支障がないかも確認することをお勧めします。
税務署への各種届出書の提出
個人の場合、税務署への各種届出書は、次のとおりです。
所得税関係の届け出として、
個人事業の開業・移転・廃業等届出書
開業届は、個人事業を開始したことを税務署に届け出るための書類です。開業日から1ヶ月以内に、納税地の税務署に提出します。
詳細は、国税庁HPの「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」を参照してください。
所得税の青色申告承認申請書
青色申告をする場合、青色申告承認申請書を提出する必要があります。青色申告をすると、白色申告に比べて税制上の優遇を受けることができます。
青色申告承認申請書は、開業日から2ヶ月以内に提出します。ただ、開業届が1ヶ月以内の提出期限となっていることから、通常は開業届と一緒に1ヶ月以内に提出することが多いと思います。
詳細は、国税庁HPの「A1-9 所得税の青色申告承認申請手続」を参照してください。
青色申告承認申請の税制優遇の主な内容
青色申告承認申請の税制優遇の主な内容としては、次のようなものがあります。
最大65万円の青色申告特別控除が受けられる
青色申告を行う上で、特に魅力的な制度に「青色申告特別控除」があります。
課税対象となる利益から10万円・55万円・65万円のいずれかを差し引くことで、支払うべき税金の額を減らすことができます。10万円は単式簿記でも可能ですが、55万・65万は複式簿記が必要です。さらに65万の場合は電子申告が必要です。それぞれ手間の内容が違いますが、手間をかけるだけ、節税に繋がります。
複式簿記は、ある程度知識がないとできない難しいですが、特にクラウド会計を使用すると比較的簡単にできます。
最大3年間赤字を繰り越せる
事業で赤字が発生した場合、その赤字を最大3年間繰り越せます。これにより、黒字と赤字を相殺できるため、節税ができます。
家族へ支払う給与を経費にできる
家族を従業員として雇っている場合に、その家族に対する給与は経費とすることができません。しかし、青色申告者と生計を同一にしているといった条件に該当する場合に限り、家族への給与を経費として計上することができます。
なお、このような条件に該当する家族従業員を「青色事業専従者」と言い、制度の利用には事前の届出が必要です。
青色専従者給与に関する届出書
生計を一にしている配偶者その他の親族が納税者の経営する事業に従事している場合、納税者がこれらの人に給与を支払うことがあります。これらの給与は原則として必要経費にはなりませんが、次のような特別の取扱いが認められています。
青色申告者の場合
一定の要件の下に実際に支払った給与の額を必要経費とする青色事業専従者給与の特例
白色申告者の場合
事業に専ら従事する家族従業員の数、配偶者かその他の親族かの別、所得金額に応じて計算される金額を必要経費とみなす事業専従者控除の特例
(注)青色申告者の事業専従者として給与の支払を受ける人または白色申告者の事業専従者である人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。
青色専従者給与の特例と事業専従者控除の特例を比較すると、条件は厳しくなりますが、その分優遇されています。
詳細については、国税庁HPの「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」を参照してください。
消費税関係の届け出として、
開業したての場合、基準期間の課税売上がなく、消費税は免税のため、消費税関係の届け出は不要でした。
しかし、令和5年10月1日から始まる消費税のインボイス制度によって、従来と同様に免税事業者のままでよいのか、それとも適格請求書発行事業者として課税事業者になるのかを検討する必要があります。
具体的な対応方法は、「今からでも間に合う『インボイス制度』の対応方法」を参照してください。
消費税について、個人開業時に提出する際に検討すべき主な届出書としては、次のとおりです。
適格請求書発行事業者の登録申請書
詳細は、国税庁HP「[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」を参照してください。
免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中において、令和5年10月1日後に登録を受ける場合には、適格請求書発行事業者の登録申請書に登録希望日(提出日から15日以降の登録を受ける日として事業者が希望する日)を記載することで、その登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられています。
消費税課税事業者届出書
課税売上高が1,000万円を超え、翌々年に課税事業者になることが決まったら、「消費税課税事業者届出書」を提出します。
詳細は、国税庁HP「[手続名]消費税課税事業者届出手続(基準期間用)」を参照してください。
経過措置適用の場合には、「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出により、消費税課税事業者届出書の提出は不要です。
消費税簡易課税制度選択届出書
簡易課税制度は、申告するための手間を減らし、業種によってみなし仕入率を適用するため、会社の業種によっては、節税になるケースがあります。
しかし、開業当初には、固定資産や長期契約の支払いがある場合があります。その時の消費税は支払った時の計算になるのが原則です。通常であれば、有利な簡易課税制度も開業当初には慎重に検討することをお勧めします。
また、簡易課税制度選択届出書を提出している場合でも、基準期間の課税売上高が5,000万円を超える課税期間については、簡易課税制度を適用することはできません。
さらに、適用をやめようとする課税期間の初日の前日まで ただし、消費税簡易課税制度の適用を受けた日の属する課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出することはできません。
インボイス制度により、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する場合には、2割特例の経過措置もありますので、比較検討することをお勧めします。
詳細は、国税庁HP「[手続名]消費税簡易課税制度選択届出手続」を参照してください。
消費税課税事業者選択届出書
免税事業者であっても、輸出業者や初期投資などで消費税の対象となる売上より経費(人件費は含みません)が多い場合には、申告すれば納税でなく、還付になることがあります。免税事業者の場合、基本的には何もしなくてよかったのですが、この還付を受けるためには、この届出書を提出することが必要です。
詳細は、国税庁HP「[手続名]消費税課税事業者選択届出手続」を参照してください。
源泉所得税関係の届け出として、
給与を支払う場合には、源泉所得税について、個人開業時に提出する際に検討すべき主な届出書としては、次のとおりです。
給与支払事務所等の開設・移転・廃業等届出書
国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設(注)、移転又は廃止した給与等の支払者開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内に提出が必要です。しかし新規に開業した場合は、下記の(注)の条件を満たしていますので、提出は不要です。
(注) 個人が、新たに事業を始めたり事業を行うために事務所等を設けた場合、事業を行う事務所等を移転した場合、又は事業を行う事務所等を廃止した場合には、「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄税務署長に提出することになっていますので(所得税法229条)、この「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」を提出する必要はありません(所得税法230条)。
詳細については、国税庁HPの「[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」を参照してください。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請を行うための手続です。
源泉所得税は、原則として徴収した日の翌月10日が納期限となっていますが、この申請は、給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者が、給与や退職手当、税理士等の報酬・料金について源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税について、次のように年2回にまとめて納付できるという特例制度を受けるために行う手続です。
1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税・・・7月10日
7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税・・・翌年1月20日
この手続をしておくと、源泉所得税は年2回の納税で済むため、納税の手間は減りますし、その間の資金繰りはその分楽になります。しかし、源泉所得税は支払った都度、定額支払等でない限り、計算する必要がありますので、計算の手間は軽減されません。さらに、源泉所得税は、従業員などから預かった税金なので、他の運転資金に回してしまうと、納税が困難になるケースもあります。
納期の特例を受けた結果、納期限までに納税されないと、加算税や延滞税の負担もその分大きくなります。加算税の課税を緩和する規定があり、1回目は加算税がかからなかったから大丈夫だと思っていると、2回めにはその規定の要件に該当しなくなるケースは少なくありません。源泉所得税の不納付加算税は、1日遅れただけでも5%~10%課税されることになりますので、注意してください。
都道府県税事務所等への事業開始等申告書提出
事業開始等申告書は、都道府県税事務所と市町村に、個人事業を開始したことを届け出るための書類です。
個人事業税の事業開始等申告書も、個人で事業を始めた際に開業届と一緒に準備するものです。
個人事業の開業・廃業等届出書と同様、個人で事業を開始したことを申告するためのものですが、こちらは税務署ではなく、都道府県民税事務所に提出します。
提出先・提出期限は、在住している都道府県により異なるため、事前に確認が必要です。
インターネットで「事業開始等申告書 都道府県名」と検索することで確認できます。
例えば、さいたま市では事業開始日から15日以内が提出期限です。
ただし、個人事業税の事業開始等申告書は届出をしなくても罰則があるわけではなく、実際に提出していない個人事業主も少なくありません。
事業開始等申告書は、都道府県税事務所等のホームページからダウンロードするか、都道府県税事務所等でもらうことができます。
必要に応じて、社会保険・労働保険の加入手続き
従業員を雇用しない場合は、国民健康保険と国民年金の加入手続きが必要です。国民健康保険と国民年金は、国民の生活を守るために必要な保険制度です。
従業員を雇用する場合は、社会保険の加入手続きが必要です。社会保険には、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の4種類があります。
社会保険の加入手続きは、従業員を雇用した日から1ヶ月以内に、管轄の社会保険事務所で行います。
労働保険の適用事業となったときは、まず労働保険の保険関係成立届を所轄の労働基準監督署又は公共職業安定所に提出します。
開業届や事業開始等申告書は、税務署や都道府県税事務所、市町村のホームページからダウンロードすることができます。また、税務署や都道府県税事務所、市町村等に相談することもできます。
また、国税関係の主な届出書は、クラウド会計各社のHPで作成することも可能です。
売上や利益がある程度見込める場合には、節税対策などは税理士に相談されたほうが、より良いアドバイスを受けられます。しかし、税理士に相談するとやはりその分のコストもかかります。
売上や利益が見通しがついていない場合には、Freeeやマネーフォワ‐ドなどのクラウド会計を使用して自分で確定申告をしてみることをお勧めします。
売上や利益が少ない場合には、税務署のチェックで引っかかったものは通常、税務調査ではなく、行政指導という扱いで対応してくれることが多いです。指摘された内容を理解して、修正申告に応じた場合には、当初の申告が期限内申告であれば、単なる間違いとして扱ってもらえ、加算税がかからない可能性が高くなります。
また、売上や利益が少ない場合、節税できる方法も限られており、節税対策としてはあまり効果がありません。
ただ、税理士は、税務対策だけでなく、資金繰りや経営計画の対応にも相談にのっています。特に税務顧問となった場合には、それぞれの業種・業態をふまえた相談にのってもらえるため、それぞれの事業に合った対応をしてくれることもあります。
事業の状況により、税理士に依頼するか検討することをお勧めします。
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なお、この投稿は、投稿日現在の情報です。投稿者の私見が含まれており、情報の誤りがある可能性もあります。また、個々の状況により、適切妥当な判断が異なる場合もあります。したがって、本投稿に基づき、発生した損害等は一切応じられません。顧問税理士がおられる場合には、相談していただくことをお勧めいたします。
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