YouTubeやSNSなどの節税方法として、「出張旅費規程」がよく取り上げられています。
一方、「出張旅費規程」を使った節税方法は、税務調査で指摘されたなどの情報があり、今のままで大丈夫か不安な方もいると思います。
そんな方へ不安を解消できるための「出張旅費規程」について、元統括国税調査官の経験から税務調査で指摘されにくい方法を説明します。
「出張旅費規程」を作るのは何のため?
2つの出張旅費の支給方法
2つの出張旅費の支給方法
出張旅費を支給する方法として、
・実費支給
・定額支給
があります。
「出張旅費規程」のメリット・デメリット
出張旅費をそのまま実費支給している場合、あえて「出張旅費規程」を作る必要がありません。
しかし、そのまま実費支給していると、出張旅費の抑制ができません。
そこで、「出張旅費規程」で上限など条件を決めることにより、出張旅費の抑制を図ることができます。
定額支給にする場合には、上限や条件の他、金額の設定もする必要があることから「出張旅費規程」を作る必要があります。
出張旅費を定額支給にする場合、
① 上限や条件を設けることで、旅費を抑制ができる
② 細かな経費をチェックすることなく支給ができるため、事務負担が軽減できる
③ 「日当」に雑費や昼食代等を入れることにより出張者の負担を補填でき、税金や社会保険料の軽減もできる
等のメリットがあります。
しかし、③の日当等の設定額によっては
① 出張旅費が上限などの条件によっては、旅費コストが大きくなり、利益や資金に悪影響を与える可能性がある
② 税務調査で出張旅費の金額の多寡について、否認される可能性がある
③ 不正な出張がある可能性がある
というデメリットもあります。
旅費規程のデメリット解消法
①と②のデメリットについては、後で詳細は記載しますが、ある資料を参考して、条件や金額をすれば、基本的にクリアできます。
③のデメリットについては、出張報告書・精算書、業務日報等でチェックする体制を整備し、不正な出張を防止するための手順を「出張旅費規程」に明記するとともに、実際にその規定に基づき、チェックする必要があります。
①と②については、何年かに1度の割合で定期的に、更新の要否を検討する必要はありますが、そこまで気にする必要がありません。
③については、規定があいまいだったり、実際に規定通りにチェックしていなかったりすると不正な出張が発生する可能性があります。
税務調査では、この点を確認されます。
それが、架空と認定されると、重加算税の対象となる可能性があります。
そうすると、会社にとっても、出張者にとっても、税などの負担が重たくなるだけでなく、それぞれ税務署や会社に対して信用を失墜してしまうことになってしまいます。
そんなことにならないためにも、しっかりした規定の作成と運用の徹底が必要となってきます。
「出張旅費規程」の作成を積極的に作成しない理由
「具体的な基準」がないから
以上のように、「出張旅費規程」のメリットやデメリットがありますが、税理士や社会保険労務士は、積極的に「出張旅費規程」を作成することは多くありません。
その一番の問題は、所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)に具体的な基準が記載されていないことです。
それを理由に、「年間○○〇万円の節税」と謳い、集客を行う専門家がいます。
一方、そんな金額は認められないけど、どれくらいが妥当なのかわからないと慎重な専門家も少なからずいます。
それに加え、
「出張旅費規程」は、「就業規則」の一部のため、本来の業務は社会保険労務士になります。
一方、「節税」等は、本来の業務は税理士になります。
「出張旅費規程」は、社会保険労務士と税理士がうまく調整しないと、適切な規定を作ることができません。
さらに、中小企業で資金繰りが安定していないところは、少しでも経費を抑えたいと必要最低限の旅費として実費支給をすることが多いことが原因だと思われます。
「具体的な基準」はないと、「出張旅費規程」は否認されるのか?
では、「具体的な基準」がないとされる「所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)」を見てみましょう。
「所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)
法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
⑴ その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
⑵ その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。」
確かに、「具体的な基準」は記載がありません。
しかし、よく見ると、
(1)役職間のバランスが保たれていること
(2) 同業種、同規模の一般的に支給している金額に照らして相当と認められるもの
と規定しています。
「具体的な基準」はないですが、「判断基準」は示されています。
したがって、一般に支給している金額を指し示す資料があり、それに基づいて、基本的に規定をすれば、問題がないと考えます。
「判断基準」としての参考資料にはどんなものがあるのか?
では、特に(2)に関する「判断基準」として、どんなものがあるのでしょうか?
通達を文言通り読むと、
「支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるもの」
となっており、業種、規模等を加味したデータを判断しなければならないように思えるかもしれません。
しかし、そのような資料は市販されていても、それなりに高額です。
したがって、基本的にはそのような資料を求めて、「出張旅費規程」の参考資料とするのは、規模がそれなりにあり、出張旅費をきっちり規定しようとする会社です。
そこで、お勧めなのが、以下の2つです。こちらは、無料で入手できます。
①「国家公務員等の旅費支給規定」
②「旅費等実態調査」【令和5年8月 財務省委託調査】
※リンクを貼っているので、是非参考にしてください。
「判断基準」として参考になる理由
国家公務員の旅費は、実態調査に基づいて算定されています。
②の「旅費等実態調査」は、①の「国家公務員等の旅費規程」を作成する基礎資料になるはずですので、これらが参考になると考えます。
税務調査担当者も国家公務員なので、これらに逸脱した金額については問題視します。
ただ、特段の問題がない限り、逸脱していなければ問題視しないし、できないはずです。
これが、これらの規定を参考にすることをお勧めする理由です。
「国内出張における日当」について
国内出張における日当の支給額
特に問題になりやすい「国内出張における日当」について、「旅費等実態調査」から抜粋してみます。
図にあるように、支給要件として
①往復行程(距離) 49.4%
②宿泊の有無 44.8%
③所要時間 20.9%
となっており、多くの場合、支給要件を決めているということが言えます。
一方、
日当は支給しない 11.6%
となっており、出張旅費の中でも曖昧な日当を排除し、経費の圧縮を図る考えを持っている企業も一定数いるということが言えます。
これを見る限り、
・日当支給を決して決めなくてはならないものではないことと
・日当支給を決めたら、支給要件を規定すること
が一般的であると考えて良さそうです。
より具体的な要件を知りたい方は、先ほどの「国家公務員等の旅費支給規定」を参考してください。
国内出張における日当の支給要件
次に、皆さんが一番気になる支給額についてみてみましょう。
ここでは、最低額、最高額、平均額に分けています。
これは、役職別を勘案した分類だと考えられます。
①最低額 平均1,780円 1,000円~2,499円で約6割を占めています。
②最高額 平均3,786円 2,000円~3,499円で約4.5割を占めています。
③平均額 平均2,621円 1,500円~3,500円で約7割を占めています。
ここで、注意したいのは、5,000円以上が最高額の場合は2割を占めているのに、最低額の場合はその10分の1の0.2割しかないということです。
これでは、先ほどの通達の(1)の役職間のバランス要件に抵触する恐れがあると考えられます。
以上、「国内出張における日当」について、ピックアップして説明させていただきました。
皆さんの会社の「出張旅費規程」はいかがであったでしょうか?
最後に
「日当〇万円以下なら税務調査で指摘されない」というのは本当か?
「節税目的」の「出張旅費規程」で「日当〇万円以下なら税務調査で指摘されない」というような表現が散見されます。
確かに、先ほどの参考資料をベースに考え、極端に逸脱していなければ、敢えて課税しないことはないことはないと思います。
しかし、実態と違うことを認識して、「出張旅費規程」を作成したことを税務担当者が把握した場合、単に否認されるだけでなく、重加算税の対象となるとなる可能性があります。
最近、 YouTubeやSNSなどでアップされている節税法は、ドローン節税などのように税務当局は以前に比べて、早い展開で封じ込めを図っているようです。
この出張旅費規定も、今後その封じ込め対象として規定で規制をしてくる可能性があります。
ただ、規定を改正せず、運用で先ほどのように課税をしてくる可能性もあります。そういった場合、大抵、修正申告で処理されるため、税務調査の傾向を掴むのは困難であると想定されます。
したがって、特段の事情がない場合には、上記の参考資料を基に一般的なオーソドックスな範囲で決めることが良いと考えられます。
これらの参考資料することで、税務調査リスクの軽減と出張経費の抑制を低コストで実現できる可能性があります。
他に方法はないのか
そうは言っても、やはり出張旅費規程で節税したいと思われる方はおられます。
そういう方は、
①自分の会社が先ほどの参考資料に合致しない会社であることを合理的に説明できる資料と
②自分の会社が違う規定を作る根拠資料
を用意して、税務調査対策として準備してください。
ここまでくると、顧問税理士や社会保険労務士と慎重に協議したうえで、「出張旅費規程」を作成することをお勧めします。
ただ、その場合は、否認される可能性が0になることはないと考えておいた方が良いと思います。
まとめ
「出張旅費規程」は、実態に合致した規定を作成し、運用すると、事務の簡便化や経費の削減には役立ちます。
一方で、実態に合致せず、節税目的に規定を作成し、運用すると、税務調査で追徴課税を受けたり、重加算税の対象となったりする可能性があります。
出張旅費規程の作成は、企業にとって重要な課題です。
ただ、税理士や社労士に任せているからでは、改善できません。
本記事を参考に、自社の状況に合った適切な規定を作成し、運用することで、経費削減や税務リスクの軽減につなげましょう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
なお、本記事は筆者の個人的見解が含まれております。
個々の会社によっては、判断が変わる場合もあります。
そのため、この記事によって損害を負うことは致しかねます。
実際に「出張旅費規程」の改定等を検討する際には、顧問税理士や社会保険労務士に相談していただくことをお勧めします。
こだま税理士事務所
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