「クラウド会計」って、何のこと?
「クラウド会計」って、最近よく聞くようになったけど、何のこと?
「クラウド会計」という言葉を分解してみると、「クラウド(cloud)」と「会計(accounting)」に分けられます。といっても、それぞれの意味もわかりそうだけど、よくはわからないですよね。
まず、「クラウド」って、何?を考えてみましょう。
「クラウド」は、英語で「雲」っていうことは知っている方は多いと思いますが、ここでいう「クラウド」とは「クラウドコンピューティング」の略称です。
「クラウドコンピューティング」は、インターネット上のコンピュータシステムを使用します。「クラウド」は、パソコン、タブレット、スマホ等の様々な機種でWindowsやiPhoneなどのiOS、Android等の様々なシステムに関係なく、インターネット環境があればコンピュータシステムにアクセスし、いつでも、どこでも使用できます。「Gmail」や「LINE」なども、クラウドコンピューティングの一種だといえば、納得できる方もいるのではないでしょうか?
ちなみにクラウドの由来ついては、「コンピュータシステムがインターネット上にありどこにあるかわからないため、クラウド(雲)の中や上にあるシステム」と言われた説があります。ただ、真偽は不明だそうです。
「クラウド運用のシステム」と対比するシステムとして「自社運用のシステム」があります。敷地(premises)内でという英語から「オンプレミス」と言います。これは、いままで、ソフトを買ってきたり、ダウンロードして、パソコンなどにインストールしてから使用していたシステムです。「オンプレミス」は、従来型のシステムを新しくできたシステムを区分するために、新たにつけられた言葉だそうです。なので、「オンプレミス=インストール型」とと理解した方がよいと思います。
次に「会計」って、何?
「会計(acounting)」とは、企業や公的機関などの経済主体が、①経済活動における金銭などの収支を認識して記録し、さらに②結果としての財政状況や経営成績などを決算書として報告文書を作成し、③株主、税務署、金融機関、取引先などの利害関係者及び経営者に報告する一連の行為を言います。
ちょっと、難しい説明になってしまいましたが、「会計」の究極の目的は、③の利害関係者などに説明すること(accout for)です。
ただ、「クラウド会計」における「会計」はもっと意味は狭くなります。ここでいう「会計」とは、①~②までの会計処理をする手段として手続きをシステム化したコンピュータ会計システムのことをいいます。
以上をまとめると、「クラウド会計」とは、「インターネット環境があれば、いつでも、どこでも会計処理を行うことができる会計システム」ということになります。
「クラウド会計」って、なぜ騒がれているの?
そんな「クラウド会計」が今、なぜ騒がれているのでしょうか?
2023(令和5)年10月から、消費税のインボイス制度が始まります。
2024(令和6)年1月1日から、電子帳簿保存法により電子取引情報の保存ルールが変わります。
これらの改正で、会計ソフト等の大幅な手直し等が必要となってきています。
その対応に従来のインストール型の会計ソフト等会社が遅れを取っていて、他のクラウドソフト会社がビジネスチャンスを狙って参入してきています。その結果、「クラウド」と謳ったTVやネット等の広告が増えてきています。
さらに、政府の後押しであるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も大きく影響しています。
また、DXという訳の分からない言葉が出てきたので、ちょっと説明します。
「DX」という言葉を分解してみると、「デジタル(degital)」の「D」と「トランスフォーメーション(transformation)」の「X」に分けられ、「デジタル技術やデータ活用を取り入れてビジネスを変革していく」という意味だそうです。
少し話はそれます。「デジタル」はなんとなくわかる方も多いと思いますが、「トランスフォーメーション」がなぜ「X」なのかと思われた方も多いと思います。調べたところ、「trans」には交差するという意味があり、同義語の「corss」を略す際に使われる「X」が使われたらしいです。
話を元に戻します。「DX」とは、今までの「デジタル」を手段として活用して、個々の業務負荷の軽減、作業効率の向上、生産性の向上等に加え、これからは「業務プロセスのデジタル化」により一連の手続きとしてビジネスを変革し、さらなる業務の効率化を図ろうとするものです。
そのため、人手不足等の代替案としても注目を集めています。DXは大企業がやるもの、中小企業の自社には関係がないといった考えは、大企業や他の競合している中小企業に遅れをとることになる可能性が高くなってきています。なので、中小企業庁も補助金など様々な政策で後押ししている状況です。
「DX」の中でも、税制改正等もあり、今特に注目を集めているのが、「クラウド会計」です。
「クラウド会計」のメリットって?
「クラウド会計」は、先ほど説明しましたように、インターネット環境があれば、いつでも、どこでも会計処理を行うことができます。
Q1. いつでも、どこでもできると何が良いのでしょうか?
A1. リモートワークや出張先でも入力やチェックをすることができます。
会計は、過去の取引などを処理するため、放おっておけば放おっておくほど、忘れたり、亡くしたりして、処理に時間がかかったり、処理ができなくなったりする可能性も増えてきます。
リモートワークは、コロナ禍で在宅勤務を余儀なくされ、一気に普及した勤務形態の一種です。特に経理業務では、中堅や大手の会社は自社でリモート対応ができる体制を構築している場合が多いです。一方、中小企業の場合、そういった体制を構築できている会社はそう多くありません。従前のインストール型の場合、コロナ禍においても出社を余儀なくされていたケースも少なからずあったと聴いています。自社でリモート対応できない場合には、クラウド会計を活用することで、経理業務を放置することなく処理を進めることができます。
クラウド会計は、会計処理を行う社長さんや経理担当の方は、出張先や自宅で処理を進めることができます。そのため、記憶の彼方に行く前に処理をすることができ、処理時間の短縮や処理困難の軽減に繋がります。クラウド会計を活用するといった方法は、選択の一つとして検討する余地があります。
また、会計システムの入力状況がリアルタイムに反映されるため、アクセス権を持っていれば、財務状況の暫定値が容易に確認できます。したがって、善後策を速やかに策定でき、トライ&エラーの回転速度を高め、スピード経営に繋げることが可能となります。決算の時や、1~2ヶ月後の数字しか分からないと、資金繰り等の経営上の問題に影響してくることも出てきます。月次試算表の作成している場合、従来型の税理士事務所では、巡回監査で入力やチェックをして、その後修正をかけて、試算表等を作成することが多いと思います。クラウド会計を活用している税理士事務所では事前に書類やデータの提示をいただき、入力やチェックをする方法を採っている税理士事務所が増えてきています。そういった税理士事務所では、提示いただいて、10営業日以内で試算表を作成することができる税理士事務所もあります。
さらに、顧問税理士等のチェックを経て、月次決算を組んで、財務分析をしていけば、より適切妥当な経営判断ができます。節税対策のみならず、予実管理にも活用できます。予実管理は、予算と実績を比較検討して、経営計画の進捗状況を確認し、経営の改善点等する管理方法で、銀行融資や補助金等の申請に有効です。
Q2. クラウド会計でできる効率化には何がありますか?
A2. 効率化できるものの主なものとして、上記の他に次のようなものがあります。
- 銀行や信用金庫等の金融機関やクレジットカード会社等のデータ連携により入力作業が省略や入力誤りも減少できます。
- 他のシステムとのデータ連携により入力作業が省略、業務プロセスの効率化ができます。
- 転記の作業が軽減するだけでなく、転記ミスが減少します。
- 仕訳の自動化、仕訳登録機能による仕訳入力の軽減ができます。
- 自社が経理をすること自計化が比較的に容易にできます。
- 顧問税理士との書類やデータなどのやり取り手間が削減できます。
クラウド会計は、金融機関やクレジット会社などと連携しているところが多く、事前に設定してれば、通帳データを手入力することなく、データ連携することができます。会社によって、金融機関の連携できる数や連携の更新方法によって差はありますが、データ連携ができればできるほど、通帳データの入力作業の手間が削減でき、効率化が図れます。それにより、税理士との通帳の写しのやりとりを少なくすることが可能になるだけでなく、入力誤りも減少します。
勤怠管理・給与計算システムや売上の請求書作成システム、経費の精算システム等さまざまなシステムとデータ連携できるものもあります。同じシリーズのシステムを使用すると、一気通貫でできるものもあります。このような点において、会計システムと一連のシステム連携により、先程説明しましたDXで業務プロセスのデジタル化によりさらなる業務の効率化を図ることが可能になります。
データ連携した規則性のある取引データは自動仕訳・仕訳登録等によって、仕訳処理自体の作業の軽減も図れます。この点について、ミスを軽減するためにも、当初の初期設定等をできれば顧問税理士等にやってもらうことをお勧めします。
したがって、税理士事務所の事務負担も軽減されるため、当事務所に限らず条件付きで記帳代行料金を格安にしてくれる税理士事務所も出てきています。ただ、インボイス制度によって仕訳数が大きく増える企業にとっては、結果的に負担増もありえます。
また、従来のインストール型では自社で経理をすることが困難であった中小企業の方でもクラウド会計に移行することで自計化が比較的容易になってくることも増えてくると思います。そうすると、さらにスピード経営に拍車をかけることができます。
ただ、顧問税理士との書類やデータのやり取りは、丸投げの記帳代行であっても、入力データのチェックをする必要上避けることはできません。顧問税理士との書類やデータのやり取りを少しでも減らすためには、データ連携をしている金融機関やクレジットカード会社を利用し、現金取引を必要最低限にすることをお勧めします。
なお、複数税率やインボイス制度の導入によって、今までカード明細や「商品代として」と書かれた領収書で入力できたものが、例外規定はあるものの、原則インボイス(適格請求書)を基にした入力になります。そのため、インボイス(適格請求書)は確実に保管してください、従来のように、領収書を亡くしても経費にしてもらえると安易に考えていると、消費税だけでなく法人税等も経費として認められにくいケースなども出てくるかもしれませんので、注意が必要です。
Q3. 消費税のインボイス制度や電子帳簿保存法に対する対応はどうですか?
A3. インストール型よりも素早く・細かなバージョンアップがあります。
令和5年10月より施行される消費税のインボイス制度に対応については、適格請求書事業者のナンバーの確認など一定の作業をしなくてはなりません。クラウド会計各社は、そういった作業を減らす取り組みを積極的に対応しています。ギリギリまで利用者の利便性を考え、システム改定をしているため、未だ全貌が見えていないところです。そこで、現在判明している、主な点を説明します。
消費税のインボイス制度は、課税事業者や税理士にとって正直めんどくさくなった税制改正です。インボイス(適格請求書)を基に、①インボイス登録番号を検索し、②適用税率の確認し、③記帳(仕訳)をし、④インボイス(適格請求書)を保存する必要があります。
今まで③と④だけで良かったものが、消費税の税率の改正によって、②の手続きが増えました。そして、インボイス制度の導入によって、①の手続きが増えます。
クラウド会計だと、サービスによって①のインボイス登録番号の検索を自動で検索し、②適用税率の確認や③の自動で仕訳までやってくれるものもあります。また、④のインボイス(適格請求書)を電子データに変換して、クラウドサーバーに保存することによって、仕訳の確認の際も、わざわざ紙の資料を探すことなく、チェックが簡単にできるようになります。
また、令和6年1月より電子帳簿保存法についても、段階的に保存義務の拡大が予定されています。電子帳簿保存法には電子帳簿を保存するための要件(条件)が決められており、それぞれに対応しているかチェックが必要です。
クラウド会計だと、事前に設定をしておけば、現時点で電子帳簿保存法の要件に合致するよう対応してくれるサービスもあります。自社のサーバーだとセキュリティの確保や故障時の対応等難しいこともありますが、大手のクラウド会計であれば、そういった点もまとめて対応してくれます。
インストール型の場合、バージョンアップの別途料金が発生したり、更新作業を行ったりする必要があります。クラウド会計は、バージョンアップは通常料金に含まれることが多く、価格改定まで通常別料金は発生しません。バージョンアップは自動更新されるため、更新作業を行う必要がありません。バージョンアップの様子見ができないという不安はありますが、バージョンアップを忘れたりして税法に合致していないということは基本的に出てきません。当然バージョンの確認の必要もありません。
現在の税制改正の傾向として、手書き・手計算では計算が困難になるような複雑な計算が増えてきたり、税制改正の細かな修正点等は税の専門家の税理士でさえ、すべて網羅していくのが困難になってきている状況です。そういった状況では、主要な税制改正に対応しているクラウド会計は、場合によっては税理士を凌ぐところもあるようになってきています。ただ、今流行のChatGPTやBardと同じで、クラウド会計は機械的な対応には強いですが、会計・税務・経営などの判断に弱い点もあります。そういった点では法人化している、法人成りを検討している企業の方には、難解で法人税・消費税等の対策ができる「クラウド会計」✕「税理士」の活用をお勧めします。
冒頭で触れたDX(デジタル・トランスフォーメーション)について、もう少し説明します。「業務プロセスのデジタル化」で注目を集めているのが、ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング、企業資源計画)システムです。従来の中核の基幹システムにとどまらず、あらゆる基幹システムと統合下システムです。これにより、①情報の一元管理による業務効率化・標準化と、全社的な資源配分の最適化、②強力なデータ連携によるリアルタイムな現状把握と内部統制の強化、③リアルタイムな現状把握を基にした意思決定の高速化を目指しています。このERPシステムに導入するにもクラウド会計は最初のステップとして有効な方法です。
節税するほど、利益が出ていない。税理士報酬を払えるほど資金繰りに余裕はない。などの小規模事業者の方は、クラウド会計一本で当面申告をやってみることもありえます。その際には会計ソフトだけだと、税務申告に対応できず別のソフトが必要な場合もあります。特に法人の場合には、クラウド会計の選択には注意が必要です。
クラウド会計について、経営者や担当者のみなさんが気になると思われる点を中心に説明させていただきました。最後に補足説明させてください。クラウド会計も未だ発展途上の会計ソフトです。完璧ではありません。したがって色々不具合も出てくると思います。それは、インストール型でも同じです。しかし、会計ソフトでいえば、インストール型よりクラウド会計のほうが現時点で総じて優勢だと考えています。それぞれ利用される企業のおかれている状況よっては、やはりインストール型の方が良いと判断されたり、もう少し様子を見るということもありえます。システム変更には、社長さん単独の判断ではやるのは、お勧めしません。システムを操作している担当者さんの理解がなくては、逆に使われないシステムになってしまう可能性もあります。したがって、システム変更を行う場合には、顧問税理士やシステム会社等との事前相談をお勧めします。
なお、この投稿は、投稿日現在の情報です。投稿者の私見が含まれており、情報の誤りがある可能性もあります。また、個々の状況により、適切妥当な判断が異なる場合もあります。したがって、本投稿に基づき、発生した損害等は一切応じられません。顧問税理士がおられる場合には、相談していただくことをお勧めいたします。
こだま税理士事務所
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