個人事業者の場合、業務上の経費と家事上の経費をどうするかという問題があります。
これらの経費は、必要経費、家事関連費、家事費という3つに大別されます。
この中で、家事関連費について、誤解を招きかねない情報も広がっているため、説明したいと思います。
個人事業主の3つの経費区分
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必要経費 |
家事関連費 |
家事費 |
どんな経費? |
業務上の経費 |
業務上の経費と家事上の経費が一体となっている経費 |
家事上の経費 |
事業用の経費としてできるか? |
できる |
原則:できない (所法45①一) 例外:できる場合もある |
できない (所45①一) |
では、なぜ所得税第45条で家事費だけでなく、家事関連費も原則事業用の経費にできないとしているのでしょうか?
それは、個人の場合、事業をしている人と家事をしている人が一緒で、必要経費と家事費に区分しづらいからです。
必要経費が白、家事費が黒だとしたら、家事関連費は灰色すなわちグレーなのです。
では、必要経費部分と家事関連費部分が区分できたら、どうなるのでしょうか?
区分しづらいけど、区分できる(グレーを白と黒に切り分けられる)のであれば、必要経費として認めてもいいよとしているのが、所得税施行令第96条と所得税基本通達45-1及び45-2です。
この中で明らかに区分できる場合、その必要である部分を必要経費に算入して差し支えないとしています。
では、明らかに区分できる必要経費とは、どのようなものがあるのでしょうか?
国税庁HPの「No.2210 やさしい必要経費の知識」に次のような例示があります。
「(1)家事上の費用は必要経費となりませんが、個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。
(例)店舗併用住宅に係る費用(租税公課、家賃、水道光熱費など)
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。」
否認される事例1 家事関連費=必要経費率5割適用のパターン
明らかに区分できる場合とは、どのような場合でしょうか?
例えば、事業所兼住宅の家賃の場合、わからないから大体半々ぐらいかな?としていた場合はどうでしょう?
「わからないから」とか、「大体」とか、「~ぐらい」とかって、「明らかに区分できている」と言えるでしょうか?
明らかには区分できていないので、基本的に家事関連費に入れても、先程の表のとおり、原則の適用となり、必要経費には計上できません。客観的合理的に5割であると説明できるのであれば、別ですが…。
私が、税務署の個人課税部門で調査等を担当していたとき、家事関連費の半分を必要経費にしているケースは多く見ました。また、現在でも記帳代行業者等でそのような処理をしていることを聞きます。
なお、所得税施行令第96条「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が…業務の遂行上必要であり、…」となっているため、あえて50%にしなければならないと誤解をしている方もおられます。しかし、所得税基本通達45-1で「当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。」となっていますので、無理やり50%にしなくても大丈夫です。
こういった場合、税務調査の担当者は、実際にその場に行き使用状況等を確認することが多いです。その際、使用状況を見せられないなどと反論すると、場合によってはその経費は全額認められないケースが出てきます。
否認される事例2 家事関連費=必要経費率10割適用のパターン
通信費や車両費等で、通常ほとんど業務に使っており、全額必要経費にしていた場合はどうでしょう?
この場合も、「ほとんど」ということは、全てでないということですので、「たまに」の部分を何らかの基準で計算しておくことをお勧めします。
たとえば、遠出の旅行やショッピングで使うことが少しでもあれば、使用時間割合や走行距離などで算出すると良いでしょう。
何%が良いかは、実態に即して客観的合理的な基準で算出すべきです。ただ、家事関連費で一部でも使っているけど、少なすぎてわからない場合などは、実務上あえて家事に最低10%は使っているとして、処理しておくことが多いです。
そうすることにより、税務調査の際、家事関連費を区分していることを説明できるようにしておくという方法です。
ただ、やはり実際に家事費がそれ以上大きい場合には否認される可能性があります。
家事関連費を全額否認されるケース
税務調査の場合、通常は税務職員が納税者などに税務調査結果を説明した後、修正申告を勧奨して、修正申告を提出してもらうことになります。
しかし、修正申告の提出にも応じず、現地の使用状況も見せられない、客観的合理的な根拠を示せないなどと行った場合には、税務署は更正処分をすることとなります。
その場合には、不服申立や裁判に繋がる可能性があるため、税務調査官は客観的合理的な根拠が示せない以上、家事関連費が「明らかに区分できている」とは言えないとして、全額否認してくる恐れがあります。
したがって、このような場合、客観的合理的な説明をして、税務調査担当者に理解を求めることが必要です。
ただ、そうならないためにも家事関連費を経費計上する場合の客観的合理的な説明ができることを意識して経費計上することをお勧めします。できるだけ、客観的に証明できる資料等を揃えておくことをお勧めします。
なお、税務調査はいつやってくるかわからないので、それらの根拠資料は、税務書の届出書類と同様に通常の書類とは別に保管しておくことをお勧めします。当時は計算していて資料もあったけれど、昔の資料なので捨ててしまったというケースもあります。
また、昔の場合、今の実態と違うケースもあります。できれば、何年かに一度見直すことをしてみる必要があると思います。
否認される事例3 必要経費→家事関連費・必要経費率0%のパターン事例
必要経費として業務上の経費としていたが、実際には私用でも使っていた場合などで家事関連費と認定されたり、明確な区分ができないなどとして否認された事例を不服審判所の裁決事例から紹介します。
・ロータリークラブの会費
・諸会費等(同窓会費、共済負担金、英会話研修費、旅費交通費、同窓会主催旅行の参加費用等)
・修士及び博士課程の授業料等並びに米国の大学への寄付金
・銀行借入時に締結した支払保険料
・従業員が家族のみのレクリェーション費用
・従業員である家族に対して支出した弔慰金・香典など
当然と思うものから、意外なものまであるかと思います。気になる方は、裁決事例をチェックしてみてください。
明確な基準について
所得税基本通達45-1「…『業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分』は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。」とされており、明確な基準の具体的な算出方法は、税法や通達等では示されておりません。
したがって、ある程度客観性合理性があり、税務調査担当者が考える客観性合理性とかけ離れていなければ、あえて税務調査で指摘してくることは少ないと思われます。なぜなら、税務調査もある程度時間的制約があります。そのため、通常は、揉めそうで、金額が大きくならないと見込まれる場合には、時間をかけるよりも、明らかな別の問題のある点を探すこととなります。
計算事例:IT関連(WEBデザインやネット物販など)で副業にしている場合
3LDK(6畳3部屋、LDK12畳)の家賃100,000円の場合
事業専用に使っている(パソコン、本棚、在庫等の置き場など)部屋の割合は、1部屋の3割だとします。そうすると、
6畳✕3部屋+12畳=30畳
で、そのうち事業に使っている部屋の割合は
6畳÷30畳=20%
その部屋の内の3割なので、
20%✕30%=6%
ただ、実際にはリビングなどでも作業していて、
12畳÷30畳=40%
そのうち、時間等を勘案して1割を使用しているとすると、
40%✕10%=4%
となり、合計10%となります。そうすると、家賃100,000円の場合、経費にできるのは10,000円が相当となることになります。
ネット等で広がっている情報より、必要経費にできる額は少ないです。
より経費にしたい場合には、もっと客観的な資料に基づき、合理的な説明ができるようにしてください。
このように専業と違い副業の場合、実際に使用するスペースや時間も違ってくるので、家賃として経費にできる金額は低くなる傾向にあります。
このように、家事関連費の経費按分の客観的合理的な按分については、個々の状況により判断する必要があります。したがって、一律には決められません。ただ、使用面積、日数・時間、走行日数・人数等を加味した割合を使用するのが一般的です。
ただ、実務上は家事関連費は10%~90%の範囲内に収まっていること、明確な基準がないため、調査担当者の意見もぶれます。実態の2倍の範囲内であれば、現実的には修正申告までなることはないことが多いと思います。そういった意味で「だいたい」でなく「ほぼ」間違いがないレベルにしていれば問題にはなりません。顧問税理士がおられ場合には、相談してください。
参考条文 所得税法第45条第1項 居住者が支出し又は納付する次に掲げるものの額は、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。 一 家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの 所得税施行令第96条 法第45条第1項第1号(必要経費とされない家事関連費)に規定する政令で定める経費は、次に掲げる経費以外の経費とする。 一 家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費 所得税基本通達45-1(主たる部分等の判定等) 令第96条第1号《家事関連費》に規定する「主たる部分」又は同条第2号に規定する「業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分」は、業務の内容、経費の内容、家族及び使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。 所得税基本通達45-2(業務の遂行上必要な部分) 令第96条第1号に規定する「主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定するものとする。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない。 |
なお、この投稿は、投稿日現在の情報です。投稿者の私見が含まれており、情報の誤りがある可能性もあります。また、個々の状況により、適切妥当な判断が異なる場合もあります。したがって、本投稿に基づき、発生した損害等は一切応じられません。顧問税理士がおられる場合には、相談していただくことをお勧めいたします。
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